[135]K'SARS
1番星に願い事をすると願いが叶うと言われている。 さて今回は、誰がお願いをするのかな?
「きゃは、くすぐったいってば〜」 女の子がはしゃいでいた。 小さな子犬を両手に持って、楽しそうにはしゃいでいた。 僕は、それを見ながら笑っていた。 そして思った。 よかった。 この子なら、安心してまかせていける。 ちゃんと、仲良くしてくれるだろうっと。 勝手だと思うけど、こうするしかこの子が幸せになる方法がなかった。 今度行く街のアパートでは、ペットは厳禁と、大家さんにきつく言われているから。 実家の方も忙しいから、面倒は見れない。 かといって、また野に戻したところでまた帰ってくるのは目に見えているし、僕自身もこの子に愛着を持っているから、捨てる事なんて出来ない。 だから、里親を探した。 女の子は、すぐにこの子を気に入ってくれた。 それから僕は、この子に関してのことを、こと細かく教えた。 お手とかおすわりとか、そんな基本的なことから、散歩のコースも、こと細かく教えた。 そして、1番大好きなボール遊びも。 この子と僕の思い出のほとんどが、このボール遊び。 僕が投げたら、すばやく取ってきて、 「もっと、もっと、ご主人様〜」 って言わんがごとく、しっぽを激しく振って催促をする。 そんなことの繰り返しが、すごく癒された。 現実に起こった全てのことが、この河川敷で遊んでいるときは忘れる事が出来た。 だから、最後の一瞬まで、この子といる時間を大切にしようと思った。 そして、僕が遠くの街へと行く当日。 女の子は、あの子を連れて見送りに来てくれた。 元気でねって、女の子は言ってくれたけど、あの子は目をうるうるして僕を見ていた。 まるで、僕との別れをわかっているみたいに。 その目を見て、一緒に連れて行きたい衝動にかられた。 この子といる時間を、また過ごして見たいと思った。 けど、ぐっと我慢した。 今ここで感情的になって、この子と女の子を不幸にするわけにはいかなかった。 だから、見ないようにした。 どんなに辛い事でも、僕が味わった悲しみを味あわせても、のびのびと暮らして行ける環境で生活をさせてあげるのが、飼い主であった僕にできた、最後の優しさだと思った。 そして、電車が走り出した。 これで、あの子は幸せに生きて行けると、胸をなでおろしながら。 しかし、それが悲劇を起こした。 1週間後。 荷物の整理を終えて、必要最低限の生活用品を揃えたところで、電話がかかってきた。 奇しくも、それがここでの最初の電話になった。 「はい。僕です」 「あっ、お兄さん?」 電話の主は、あの女の子だった。 どこかせっぱ詰まった様子だったから、まず世間話をするためにかけてきたことじゃないってのは、すぐにわかった。 「ど、どうしたの?」 「あ、あの、ななちゃんが、ななちゃんが!」 僕がかわいがっていた犬の名前が、ななだ。 「なながどうかしたの?」 「ななちゃんが、ななちゃんが、いなくちゃったんです!」 その瞬間、僕は全身が石にみたいに堅くなった。 ななが、いなくなった。 女の子から聞かされたその言葉が、頭の中で何度も繰り返された。 「この前、いつもように河川敷でボール遊びをしていたら、ななちゃんがボールを咥えたまま動かなくなって、何度呼んでも反応がなかったと思ったら、ななちゃんが、そのままどこかに行ってしまったんです。ごめんなさい、ごめんなさい!」 「お、落ちついて。だ、大丈夫だよ。ななはまだ子犬なんだから、まだそう遠くに行っていないはずだよ」 落ちついていないのは、僕の方だった。 そのときに起こった出来事を簡単に想像することが出来た。 大方、ななは僕とのボールを遊びを忘れることが出来なかったんだ。 だから、じっと女の子の顔を見ていたと思う。 この人は、ななのご主人様じゃないって。 ボールを持っていなくなったのは、きっと僕に届けるためだ。 いくら子犬とはいえ、犬の嗅覚は人間の何倍も優れているのだから、ここに来る事は不可能ではない。 しかし、それだけはないと願いたい。 そんなことになったら、その後の結末はわかりきっていることだ。 「とにかく、もう1度探してみて。それで見つかったら、僕に教えてほしい」 「は、はい。それじゃ!」 受話器を置いた僕は、すぐに出かける準備をした。 ななが来ていると思えなかったけど、万が一があるかもしれなかったから。 軽く重ね着をして、靴を履いて外に出ようとしたら、そこに1匹の子犬がいた。 「な、なな…」 そう、あっちにいるはずのななが、ボールを咥えたままいた。 かなり衰弱しているのが、誰の目にも明らかだった。 「くぅん〜」 ななは僕の足元にボールを置くと、崩れ落ちるかのように倒れこんだ。 「な、なな!」 僕はすぐにななを抱き上げた。 すると、ななは最後の力を振り絞って、僕の頬をぺろっと舐めた。 すごく満足そうな顔をして、ななはそのまま息を引き取った。 僕は、ななの冷たく冷え切っていた体を抱き締めて、そのまま玄関でうずくまっていた。 心の中で、ずっと謝りながら。
「行くよ。なな」 「は〜い」 僕とななは、河川敷にいた。 今日はななの誕生日。 みんながパーティの準備をして、僕がプレゼント選びを兼ねて、ななとデートをした。 いろんな所を散歩して、デパートでななのほしいものを買った。 ななが選んだのは、野球グローブとボールだった。 しかも、2組。 何故2組かといえば、僕とキャッチボールがしたいからというものだった。 そして、そのまま河川敷に向かい、こうしてキャッチボールをしている。 とはいえ、僕自身があまりしたことがないから、ほんの少し不安が残る。 「それ」 投げたボールは、ふにゃふにゃと放物線を描きながらななへと向かって行く。 うむ、もっとやっておけばよかったな。 「えい」 ななはふにゃふにゃボールをグローブに収めて、全力で投げ返してきた。 が、そのボールは高く飛びすぎて、後ろへと飛んで行った。 「あやや、ごめんなさい、ご主人様」 「いいよ。気にしないで」 僕は遠くに行ってしまったボールを取って、また元の位置に戻って投げた。 ふにゃふにゃ。 そのボールをまたななが取って、 ぶん! ものすごい勢いで僕に向かって投げるものの、また後ろの方向へと飛んで行く。 あとは、その繰り返し。 なんか、昔の反対になったような気分。 「はあ、はあ、な、なな、少し休もうか」 「ええ〜、なな、まだ疲れていないよ〜」 そりゃそうだ。 ななはほとんどその場を動いていないのだから。 それに引き換え、僕は走りっぱなしだった。 その疲労感は、どっちが大きいかなんてすぐにわかる。 ふっ、これが若さか…。 「ご主人様〜、早く、早く」 「…わかったよ。じゃあ、行くよ」 「は〜い」 僕は疲れている体を押して、またななにボールを投げる。 それを、あの頃と同じように、日が暮れるまで続けた。
「えへへ、楽しかった〜」 家への帰り道。 ななは、大切そうにグローブとボールを持って、僕の手を握っている。 「よかった、ななが気に入ってくれて」 「ご主人様からプレゼントされたものだもん。ななには、大切な宝物だよ」 「そっか」 「ななね、またご主人様とボール遊びがしたいって思っていたんだよ。だから、そのお願いがかなっちゃったのかな」 「なな…」 涙が出そうだった。 僕のせいで、ななはその命を失ってしまったのに、なのに、また一緒に遊びたいという気持ちが、すごく嬉しくて、また、愛しかった。 「ミカ姉ちゃんがね、1番星に願いをすると叶うって言ったからね、ななね、一生懸命お願いしたんだよ。えへへ、なな、えらい?」 「…そうだね」 繋いでいた手を離して、僕はななの頭を撫でた。 「ななは、えらいね」 「えへへ、ご主人様にほめられちゃった」 「…よいしょっと」 「あやや?」 僕はななの軽い体を持ち上げて、少し強めに抱き締めた。 子犬の頃にしてあげたように。 「ご、ご主人様?」 「なんか、昔を思い出してさ。それで、久しぶりにしたんだけど…。いやかな?」 「ううん。なな、すごく嬉しいよ」 ななは僕の首に手を回して、抱き着いてきた。 日向のような、懐かしい匂いがした。 「…これからも、一緒に遊ぼうね、なな」 「うん。ご主人様、大好き〜」 「僕も、ななのこと好きだよ」 それから、僕とななまた手を繋いで、帰路へと着いた。
「あはは、それ〜」 僕は、拾ってきた子犬とボールで遊んでいた。 そのやりとりが楽しくて、日が暮れるまでしていた。 その子の名前は、なな。 かけがえの無い、僕の宝物だ。 僕はもう、絶対に離す事はないだろう。 何故なら、ななは大切な家族で、宝物だからだ。
1番星に願い事をすると願いが叶うと言われている。 さて、次回は誰がお願いをするのかな?
<終>
後書き♪
お、終わった〜。 「本当にぎりぎりでしたね」 うむ、そうなのだよ、サキミ。 「とりあえず、11月の1人目は終わりましたね」 …そうだった。 11月は、もう1人いるんだった。 「アユミさんですよね。それで、その次がモモちゃん。そして、今度はあゆみさん」 あ、アユミのBSSが2つある…。 「まあ、P.E.T.S.と天使のしっぽの誕生日を分けるとなると、そうなりますよね」 …が、がんばります! 「大丈夫ですよ。ご主人様ならやれますよ」 ありがとうな。 よっしゃ、や〜ってやるぜ! 「ふぁいと、だよ」 では、今回はこの辺で〜。 「感想をお待ちしております〜」
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2003年11月06日 (木) 19時01分
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